ZoningKit解析と海外展開
1. 目的
MORIZON NEXT がダウンロードする林野庁「もりぞん」ZoningKit の中身を調べ、ブラジル・カナダ・スペインなど日本以外の地域で林業・森林整備・環境対策に使えるようにするには何が必要かを整理する。
2. ZoningKit の中身
配布元は G空間情報センター(CKAN データセット rinya-morizon-dateset)。平面直角座標系の1〜13系ごとに ZoningKit_XX.zip がある(14〜19系は無い)。8系の ZIP(約423MB)の中身は次のとおり。
| 場所 | 中身 |
|---|---|
DATA/SiteIndex/NPP/NPP08.tif | 純一次生産力(66MB) |
DATA/SiteIndex/SRAD/SRAD08.tif | 日射係数(269MB) |
DATA/SiteIndex/VTEX/VTEX08.tif | 凹凸度(130MB) |
各 .tfw・.tif.aux.xml | 座標の付与情報と、表示色用の属性表 |
DATA/SAGYO-SYSTEM_CSV/集材作業効率の設定220113.xlsx | 集材作業効率の設定。プラグインの templates/ に同じものが入っている |
DATA/DEM/・ROAD/・TATEMONO/・YOUSO/・ZONING/ | 空のフォルダ(利用者が入れる場所) |
ゾーニングファイル構成.txt | フォルダ構成の説明だけ |
実質的なデータは、地位指数の計算に使う NPP・SRAD・VTEX の3枚のラスターだけである。
3枚のラスターの性質(8系)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 格子 | 3枚とも同じ。50mメッシュ、4815×8879セル、8系の全域 |
| 型・圧縮 | Float64、LZW圧縮、NoData は NaN |
| 座標系 | EPSG:2450(JGD2000 / 平面直角座標系 VIII系) |
| 値のあるセル | 約66%(海と系の外は NaN) |
| 作成ソフト | GRASS GIS 7.8.5(ファイルのメタデータより) |
| 単位 | ファイルには書かれていない |
| データ | 意味(マニュアルより) | 1パーセンタイル | 中央値 | 99パーセンタイル | 最大 |
|---|---|---|---|---|---|
| NPP | 気候から見た、植物が育つ力 | 11.4 | 15.6 | 17.4 | 17.8 |
| SRAD | 斜面の向きや地形による日当たり | 664 | 1413 | 1657 | 1751 |
| VTEX | 谷か尾根か(谷ほど木がよく育つ傾向) | 0 | 44 | 168 | 375 |
マニュアルには、NPP は1km格子の気候データから、SRAD・VTEX は50m格子の標高から作られた全国一律のデータとある。
zoningkit_fetcher.py 冒頭)には「JGD2011 平面直角座標系」とあるが、ファイルの実際の座標系は JGD2000 である。3. プラグインでの使われ方
3枚は地位指数(40年生時の上層木の樹高、m)の推定式に入る(processes/raster_writer/siteidx.py)。
地位指数 = a + (NPP − b)·c − (SRAD − d)·0.01·e − (VTEX − f)·0.01·g
係数は樹種ごとに既定値がある(settings_manager.py)。出典は光田靖・北原文章(2017)。
| 樹種 | a | b | c | d | e | f | g |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| スギ | 21.280 | 15.82 | 1.028 | 1347.09 | 1.001 | 58.85 | 1.111 |
| ヒノキ | 16.830 | 11.05 | 0.9688 | 1396.0 | 0.09319 | 61.92 | 0.8617 |
| カラマツ | 22.510 | 11.61 | 0.129 | 1264.0 | 0.2939 | 44.3 | 1.125 |
4. 外国の地域で使うために必要なもの
ZoningKit の部分
- NPP・SRAD・VTEX を同じ定義で作り直す。SRAD・VTEX は算出方法が分かれば、どの国の DEM からでも作れる見込みがある。NPP は気候データが要り、どの式で作ったかを光田・北原(2017)や林野庁の資料で確かめる必要がある(今回のファイルからは作り方が分からない)。
- 係数を作り直す。係数は日本の森林調査データと日本の3樹種に当てはめた値なので、外国の樹種や気候にはそのまま使えない。現地の地位指数モデルを作るか、別の方法で作った地位指数ラスターを直接入れる(マニュアルでは「独自の地位指数」を入力欄から指定できる)。
- 集材作業効率の設定を置き換える。日本の作業システムの値なので、現地の作業システムで置き換える必要がある。
ZoningKit 以外で日本専用になっている部分
| 部分 | 今の実装 | 置き換え先の例 |
|---|---|---|
| 座標系の判定 | 平面直角1〜13系だけ。国土地理院の逆ジオコーダで都道府県を調べて決める | UTM など |
| 整備範囲のチェック | 地位データが無い範囲では「整備範囲外」として処理を止める | 新しい地位データの範囲に合わせる |
| DEM の取得元 | 国土地理院、VIRTUAL SHIZUOKA、長野県 | Copernicus DEM などの全球 DEM、現地の LiDAR |
| 建物・道路 | 基盤地図情報(ログインが必要) | OpenStreetMap |
外国対応で一番重いのは、地位指数を出す方法、つまり3枚のラスターと日本向けの係数をどう置き換えるかである。それ以外は取得元と座標系の差し替えになる。
5. 植生の調査が必要になる部分
NPP・SRAD・VTEX は気候と地形から作るので、植生の調査がなくても作れる。植生の専門的な調査が必要になるのは、係数と樹種の部分である。日本の係数は、森林調査の実測値(樹高と林齢)を樹種ごとに3つのデータへ当てはめて求めている。
調査のまとめとして要るもの:
- 対象樹種:その地域で植林・施業の対象になる樹種(日本のスギ・ヒノキ・カラマツに当たるもの)
- 成長の基準:樹種ごとの基準林齢と、その齢での上層木の樹高。「40年生時」は日本の造林に合わせた基準で、成長の速い熱帯の樹種や遅い北方の樹種では基準林齢が変わる
- 位置付きの調査プロット:樹高・林齢・樹種と座標がそろったデータ(係数を当てはめ直すのに必要)
- 既存の資料:地位の区分図や成長量の表。あれば地位指数ラスターを直接入れる方法に回せる
6. オープンデータでの組み立て
オープンデータで作れれば、日本以外(ブラジル、カナダ、スペインなど)の林業・整備・環境対策に使えるツールとして、使用国を広げられる。地位指数は「基準林齢での上層木の樹高」なので、次の3層に分けて作るのが現実的である。
| 層 | 役割 | 使えるオープンデータ |
|---|---|---|
| 1. 説明する要素 | ZoningKit の3枚に当たる部分。国を選ばない | 地形:Copernicus DEM(30m)などから日射・凹凸度に当たる値を計算。気候:WorldClim などの気候データや衛星由来の NPP |
| 2. 樹高と林齢 | 係数を当てはめるための教師データ。国ごとのプロットが無くても仮の式を作れる | 樹高:UMD GLAD の全球樹高マップ(GEDI+Landsat、30m、2019年)。林齢:GAMI v2.0(100m、2010年・2020年、CC BY 4.0)。前身は Besnard et al.(2021)の1km林齢マップ |
| 3. 国ごとの補正 | 2 の結果を各国の国家森林調査で確かめて直す。植生の専門的な調査のまとめが入る | 各国の国家森林調査(次節) |
7. 3か国の国家森林調査の状況
2026年10月19日に調べた範囲。
| 国 | 公開状況 | 注意点 |
|---|---|---|
| スペイン | MITECO が IFN(国家森林調査)のデータを公開している。IFN4 は FAO のマイクロデータ目録にも登録されている | 利用条件として「出典と日付の明記」があるが、これは報告書についての記述。プロットデータのライセンスはダウンロードページで確かめる必要がある |
| カナダ | NFI のプロットは申請制の部分がある。各州のデータを統合した MAGPlot は ZIP で配布されている。SCANFI(30m、樹高・樹種構成・バイオマス、Open Government Licence)もある | BC州などはプロットの座標を保護している。SCANFI に地位指数の層があるかは確認できなかった |
| ブラジル | SFB が IFN の公開データを、テーマ別(土壌・落葉落枝・土地利用・竹など)に州ごとの CSV で出している。調査単位(conglomerado)の中心座標は WGS84 | 樹高・林齢をまとめた形で落とせるかは確かめられなかった。落葉落枝のデータは2025年10月に重複を訂正した版が出ている |
8. 気をつける点
- 樹高の意味の違い:全球の樹高マップの樹高は衛星から見た林冠の高さで、地位指数の「上層木の樹高」とは定義がずれる。GLAD は、山地の斜面で高めに出ることと、市街地で建物の高さと混ざることを既知の問題としてあげている。
- 人工林:ブラジルのユーカリのような成長の速い人工林では、全球の林齢マップの精度が落ちやすいと考えられる。植林年の記録など国内のデータで補う必要が出そうである。
- 基準林齢:「40年生時」という日本の基準は、国や樹種ごとに決め直す必要がある。
- 地位の読み方:マニュアルにあるとおり、全国一律の式で求めた地位指数は絶対値ではなく、地域の中での相対的な良し悪しとして読む。新しい地域で作る場合も、補正の精度がそろうまでは同じ扱いになる。
出典
- 林野庁「森林ゾーニング支援ツール もりぞん」ZoningKit(G空間情報センター)/地位指数の推定式:光田靖・北原文章(2017)
- MITECO IFN4 データ処理マニュアル
- FAO Microdata: Spanish NFI4
- forestables (ecosyste.ms)
- Canada's National Forest Inventory Ground Plot Data
- Forest Inventory Ground Plots - Public Access
- Forest Inventory Ground Plot Data and Interactive Map (BC)
- SCANFI (open.canada.ca)
- SCANFI v1.2 (Earth Engine)
- IFN Brasil – Solos (dados.florestal.gov.br)
- IFN Brasil 落葉落枝メタデータ(訂正版)
- Resolução SFB nº 23/2024
- IFN公開プラットフォームの記事(Portal Amazônia)
- UMD GLAD GEDI global canopy height
- Mapping global forest canopy height through integration of GEDI and Landsat data
- Besnard et al. 2021, ESSD
- GAMI (B2FIND)
- ESSD 2026 vol.18 (GAMI)