計画の詰めと調査
目次:0. プラグインの前提 / 1. 問題提起 / 2. 論点の整理 / 3. 前提の決定 / 4. 地位データ3要素の正体 / 5. 地位指数の入れ方 / 6. 国の比較 / 7. 確認事項
0. プラグインの前提:地位指数の仕組み
手引きの式とコードの式の違い
手引き p.70 の MEMO の式:
スギ地位指数 = 21.28 + 1.028*NPP − 1.001*日射係数 − 1.111*凹凸度
プラグインが実際に計算している式:
スギ地位指数 = 21.28 + (NPP − 15.82)×1.028 − (SRAD − 1347.09)×0.01×1.001 − (VTEX − 58.85)×0.01×1.111
手引きの式には、各データから基準値を引くこと(15.82、1347.09、58.85)と ×0.01 が抜けている。手引きの式のまま計算すると、SRAD は1400前後なので −1400m のような値になり、意味が通らない。原版の手引きの書き方の問題である。
式の読み方
「平均的な場所の樹高 ± 条件による増減」という形。
- a(スギなら 21.28):NPP・SRAD・VTEX が基準値(b・d・f、おそらく当てはめに使ったデータの平均)のときの地位指数。平均的な場所なら40年で約21m
- 各項:基準より良い条件なら足し、悪い条件なら引く
- ×0.01:SRAD・VTEX の数値の桁を合わせるための換算と考えられる(根拠は未確認)
3つの要素は何で、なぜ効くのか
| 要素 | 何か | 地位指数への効き方 | 理屈 |
|---|---|---|---|
| NPP(純一次生産力) | 気候だけで決まる「その土地で植物が1年にどれだけ育つか」。光合成で吸収した炭素から呼吸で出した分を引いた量。光田先生の成長モデルを気象データで動かして1km格子で計算したもの | プラス(高いほど地位が上がる) | 暖かく、空気が乾きすぎない土地ほど木はよく育つ。広い範囲の差(地方ごとの差)を表す |
| SRAD(日射係数) | 斜面の向きと傾きで決まる日の当たり方。南向きの急斜面ほど高い | マイナス(日当たりが強いほど地位が下がる) | 強い日射は土を乾かす。スギは乾燥に弱いので、日の当たりにくい北向きや谷の斜面のほうがよく育つ |
| VTEX(凹凸度) | 周り8方向の低い所をどれだけ見下ろせるか。尾根ほど高く、谷ほど低い | マイナス(尾根ほど地位が下がる) | 尾根は風に当たって乾き、水も集まらない。谷は水が集まり湿る |
要するに、「気候で決まる土地の基礎体力(NPP)」から「乾きやすさ(SRAD・VTEX)」を差し引く考え方。手引き p.16 の「植物の成長に大きく影響する土壌水分と関連する…地形指標は、地位指数と高い相関関係にある」が、SRAD と VTEX を使う理由にあたる。
樹種ごとの係数の違い
| 樹種 | NPP(気候) | SRAD(日当たり) | VTEX(尾根) | 読み取れる性格 |
|---|---|---|---|---|
| スギ | 1.028 | 1.001 | 1.111 | 気候にも乾燥にも敏感。湿った谷・北向きを好む |
| ヒノキ | 0.969 | 0.093 | 0.862 | 気候には敏感だが、日当たりの影響はほとんど受けない |
| カラマツ | 0.129 | 0.294 | 1.125 | 気候の差はあまり効かず、尾根か谷かが主に効く |
各要素がどれだけ効くか(8系の値で試算、スギ)
データの1〜99パーセンタイル(ページ1の表)を式に入れた値。
- NPP:−4.5m 〜 +1.6m(幅 約6m)
- SRAD:+6.8m 〜 −3.1m(幅 約10m)
- VTEX:+0.7m 〜 −1.2m(幅 約2m)
8系のスギでは、日当たり(SRAD)の効きが最も大きい。
プラグインの中での使われ方
- 3樹種の地位指数ラスターを作る(
siteidx.py) - ユーザーが樹種を1つ選び、しきい値を2つ決めて 1点・2点・3点に分ける(
profit.py) - その点数を「集材作業効率」「道路からの距離」の点数と足して「収益性」にする
- 収益性と災害リスクを組み合わせてゾーニングする
1. 問題提起(ユーザー)
morizon_next copyを翻訳するとして、ページ1では例としてスペイン、カナダ、ブラジルを挙げているが、最初に対応する国をこの通りで進めるかは考慮する必要がある- ページ1が示すようにオープンデータを利用するとして、それが可能かという問題もある
- 前提として計画を詰める必要がある
補足:ページ1で触れたコードの座標系の表記(JGD2011 と JGD2000)は原版の問題であり、扱わない。
2. 論点の整理(Claude)
翻訳の現状
tr() を使っているファイルは0。日本語を直接書いた .py が74、.ui が3、docs/manual.html も日本語。翻訳の仕組みはまだ無い。
翻訳と現地対応は別の作業
- 翻訳:
tr()化と .ts/.qm の整備。どの国でも必要で、国の選択を待たずに進められる - 現地対応:地位指数、DEM、座標系、作業システムの置き換え。国の選択とオープンデータの可否に直接かかる
オープンデータで本当にできるかの問い
- 定義が分かるか:NPP・SRAD・VTEX の作り方(前提条件)
- ライセンス:実行時に元データを取りに行くのか、加工したものを置いて配るのか
- 取得の方法:URL の安定、認証の要否、自動アクセスが許されるか(静岡県オープンデータで遮断された前例)
- 科学的に成り立つか:衛星の林冠高と「上層木の樹高」のずれ。1地域での試しが要る
進め方の案
- 目的と対象を決める
- 3要素の定義を確かめる
- 候補国を比べる
- 候補国ごとのオープンデータの可否
- 1地域で試す(翻訳の仕組みづくりは並行)
3. 前提の決定(ユーザー)
| 項目 | 回答 |
|---|---|
| 目的 | 単純に、このシステムを有効に使える国があるかに興味があるだけで、現地の窓口は想定しない。QGIS の特性として、データをユーザーが用意でき、その用意をプラグインが誘導・作成できれば、良いツールとして提供できる。そこに設計者として興味がある |
| 翻訳の範囲 | 汎用としてなので全て。英語が最初。オープンデータの出どころによっては、その国の言語を優先する |
| 次の作業 | 調査(3要素の定義、候補国の比較、オープンデータの可否)を進める |
4. 地位データ3要素の正体(調査)
出典
「光田靖・北原文章(2017)」は論文ではなく学会発表:光田 靖・北原文章「日本全国を対象としたスギ、ヒノキ、カラマツ地位指数分布の推定」第128回日本森林学会大会(鹿児島市)、2017年3月27日。科研費 15K07483(2015〜2017、代表:光田靖)の成果。要旨そのものは未確認。
定義(論文より)
各要素の意味と、地位指数への効き方の理屈は 0. プラグインの前提 を参照。
| 要素 | 定義 | 外国で作れるか |
|---|---|---|
| SRAD | 日射係数。太陽の天頂角・方位角と斜面の傾き・向きから計算(Smith et al. 1980)。土壌の乾きやすさに関わる日当たり。50m | 作れる DEM から QGIS のラスター計算で |
| VTEX | Vertical exposure index。8方向の俯角の合計(Mitsuda et al. 2007)。風による蒸散の受けやすさ。50m | 作れる 探す距離などは Mitsuda et al. 2007 で要確認 |
| NPP | 炭素収支型の成長モデルで、初期条件をそろえて1km格子で10年間の成長を計算した平均。気象は1971〜2000年。気温が高く大気の乾燥が弱いほど高い | 同じものは作れない 日本の樹種に合わせたモデルの出力 |
当てはめには、国土地理院の50m DEM、気象庁の1km格子気象データ、全国の森林生態系多様性基礎調査(NFI)が使われている。
結論:外国では「NPP の代わりの気候の要素(MODIS NPP 500m、WorldClim の気温・乾燥度など)+SRAD・VTEX+現地で当てはめた係数」という形で作り直す。式の形(定数+3項の一次式)はそのまま使える。
5. 地位指数の入れ方(設計のたたき台)
ユーザーがデータを用意し、プラグインが誘導・作成する前提での3段階。
| 段階 | ユーザーが用意するもの | プラグインがすること | 向く地域 |
|---|---|---|---|
| A. 既製の地位指数 | 現地の地位指数ラスター | 取得先の案内、座標系と範囲の合わせ込み | ニュージーランド、カナダ BC州など |
| B. 3要素から計算 | DEM、気候データ(取得を誘導) | SRAD・VTEX を DEM から自動で作る。係数は既定値か手入力 | 既製の地位指数が無い地域 |
| C. 係数の当てはめ | 樹高・林齢・樹種・座標のプロット CSV | 3要素をプロットの位置で読み取り、係数を当てはめる | 調査データを持つ利用者。植生調査のまとめがここに入る |
- 今のプラグインの「独自の地位指数」の入力欄が A の土台になる。B・C は新しく作る
- ライセンスの面では、データを同梱・中継せず、ユーザー自身が取得するよう誘導するのが一番安全。非商用・改変禁止のデータ(Scion)でも、ユーザー自身が使う道は残る
- その他の差し替え:座標系(UTM など)、DEM(全球の既定は Copernicus DEM 30m)、建物・道路(OpenStreetMap)、集材作業効率(既存の編集画面)、基準林齢(樹種ごとに設定)
6. 国の比較(第一段階)
選ぶ基準:ツールの前提(急傾斜の人工林を生産と保全に分ける)に合うか、データ、地位指数の既製品、言語。ページ1の3か国は例であり根拠は無かったため、ニュージーランドを加えた。
| ニュージーランド | カナダ(BC州) | スペイン | ブラジル | |
|---|---|---|---|---|
| 言語 | 英語 | 英語・仏語 | スペイン語 | ポルトガル語 |
| 前提に合うか | 急傾斜のラジアータマツ人工林(架線集材の割合は未確認) | 急傾斜はあるが天然林が中心 | 北部の山地にマツ・ユーカリの人工林 | ユーカリの短伐期、平地が多い |
| DEM | 全国 LiDAR 1m、CC BY 4.0、全国の8割超 | HRDEM 1〜2m(OGL、範囲は一部)、MRDEM 30m(全域) | PNOA LiDAR の MDT 2m/5m(CC BY 4.0 は要確認) | 全国の高精細 DEM は確認できず |
| 既製の地位指数 | Scion の地位指数・300 Index(25m)。CC BY-NC-ND 4.0 | PSPL(22樹種)。ライセンス未確認 | 確認できず | 確認できず |
| プロットデータ | 未確認 | 一部申請制、州が座標を保護 | IFN3 以降は位置付き(Access 形式)、ライセンス未確認 | 州別 CSV は直径のみ、ライセンス表示「なし」 |
全球の共通データ:Copernicus DEM GLO-30(無料、出典の表示文と免責文が必要)、MODIS NPP(利用・再配布の制限なしと記載)。
暫定の見立て(決定ではない):1. ニュージーランド 2. カナダ BC州 3. スペイン(スペイン語圏への入口) 4. ブラジル(後回しの候補)
7. 確認事項
| # | 項目 | 目的 | 状態 |
|---|---|---|---|
| 1 | Mitsuda et al.(2007)J. For. Res. 12(3) の本文(有料) | VTEX・SRAD の正確な計算方法 | 未 |
| 2 | 第128回日本森林学会大会の要旨 | NPP がどの樹種のモデルで計算されたか | 未 |
| 3 | PNOA MDT02/MDT05 のライセンス | CNIG のページで確定 | 未 |
| 4 | BC州 PSPL のライセンスと形式 | 段階 A で使えるか | 未 |
| 5 | スペイン IFN のプロットデータのライセンス | 段階 C の教師データに使えるか | 未 |
| 6 | LINZ 全国 DEM のライセンスと現在の範囲 | 記載が一つにまとまっていない | 未 |
| 7 | ニュージーランドの地位指数の基準林齢 | 20年と記憶しているが要確認 | 未 |
| 8 | ニュージーランドの架線集材の割合とプロットデータの公開状況 | 前提に合うかの裏付け | 未 |
| 9 | Scion の地位指数の取得方法(Koordinates のログインの要否) | ユーザーを誘導できるか | 未 |
出典
- Mitsuda & Kitahara 2015, FORMATH 14
- 科研費 15K07483 研究成果報告書
- Mitsuda et al. 2007, J. For. Res. 12(3)
- MOD17A3HGF v6.1
- Copernicus DEM GLO-30 License
- LINZ Attributing elevation data / New Zealand LiDAR 1m DEM / PGF LiDAR programme
- Radiata pine spatial productivity indices(Scion) / Mapping and explaining the productivity of Pinus radiata in New Zealand
- BC Provincial Site Productivity Layer / PSPL v9(2026-05)
- HRDEM 製品仕様 / National Elevation Data Strategy
- MDT05(INSPIRE) / MDS05(IDEE) / IFN4 documentador SIG / IFN Metodología
- IFN Brasil DAP≥10 por UF